1. OT環境の認証とは
OT(Operational Technology/制御・運用技術)とは、工場の生産設備、プラント、インフラなどを制御するシステムの総称です。製造ラインを動かすPLC(制御装置)、監視用のHMI(操作画面)、制御用PC、SCADA(監視制御システム)などが含まれます。
OT環境の認証とは、こうした制御システムに「誰がアクセスし、操作できるか」を確認・制御する仕組みのことです。生産設備を操作する権限は、本来、限られた人だけが持つべきものです。もし認証が甘く、権限のない人や外部の攻撃者が制御システムを操作できてしまえば、生産の停止、品質異常、さらには安全上の事故につながりかねません。だからこそ、OT環境の認証は、工場の安全と稼働を守る要になります。しかし、OTの認証には、オフィスのIT環境とは異なる、特有の難しさがあります。
なぜ今、OTの認証が問われるのか
かつてOTは、外部から切り離された「閉じた世界」で動いており、認証が甘くても大きな問題になりにくいと考えられてきました。しかし、生産効率化のためにOTがITネットワークやインターネットにつながった今、外部からOTへ到達する経路が生まれました。閉じていることを前提にした甘い認証は、もはや通用しません。OTの認証を見直すことが、喫緊の課題になっています。
2. IT環境の認証と、何が違うのか
OT環境の認証を理解するには、IT環境との違いを知ることが役立ちます。両者は、優先するものが根本的に異なります。
| 観点 | IT環境(オフィス系) | OT環境(制御系) |
|---|---|---|
| 最優先すること | 情報の機密性・完全性 | 可用性(止めないこと)・安全 |
| システムの更新 | 比較的こまめに更新できる | 止められず、更新が難しい。古いまま稼働 |
| 稼働期間 | 数年で入れ替わることが多い | 10年以上使い続けることも珍しくない |
| 認証の実情 | 個人認証・多要素認証が普及 | 共有アカウント・弱い認証が残りがち |
最大の違いは、OTでは「止めないこと(可用性)」が最優先される点です。ITなら「怪しいので一旦止めて確認」ができても、OTでは生産や設備を簡単には止められません。この「止められない」という制約が、認証の更新や強化を難しくしています。IT向けの認証の常識を、そのままOTに持ち込むことはできないのです。
3. OT認証が抱える4つの課題
OT環境の認証には、具体的に次のような課題があります。
- 古いシステムで、認証が弱い:長期間使われるOT機器には、古いシステムが多く、そもそも強固な認証の仕組みを持たないものがある。パスワードすら設定されていない、あるいは初期設定のままのケースも。
- 共有アカウントが常態化:制御用PCを複数の作業者・保守員が使うため、共有アカウントでの運用が根付いている。「誰が操作したか」が記録されない。
- 止められないため更新が難しい:認証を強化しようにも、システムの更新には設備の停止が伴うことが多く、簡単には手を入れられない。設備メーカーの承認が必要な場合もある。
- 外部からのアクセス経路:設備メーカーによるリモートメンテナンスなど、外部から制御システムへアクセスする経路があり、その認証が狙われやすい。
これらの課題があるため、OTの認証は「機器そのものの認証を強くする」だけでは解決しにくいのが実情です。古い機器の認証を直接変えるのが難しいなら、その機器に至る「経路」や「アクセスする人」の側で認証を固めるという発想が現実的になります。産業用制御システムのセキュリティに関する国際規格(IEC 62443など)でも、こうした多層的なアクセス制御の考え方が重視されています。
OT環境の認証、どう強化しますか?
古い制御システムを止めずに、アクセスする人と経路の認証を固める。Net Peaceが、OT環境の実情に合った認証・アクセス管理を支援します。
4. 特に重要なリモートメンテナンスの認証
OT環境の認証の中でも、とりわけ重要なのがリモートメンテナンスの認証です。設備メーカーやベンダーが、遠隔から工場の設備を保守・監視するために、外部から制御ネットワークへアクセスする——この経路は、利便性が高い一方で、攻撃者に狙われる代表的な入口になっています。
実際、製造業を襲ったサイバー攻撃の多くで、外部からのリモートアクセス経路(VPN機器の脆弱性や、盗まれた認証情報)が侵入の起点になっています。リモートメンテナンスの認証が弱ければ、そこから工場の中枢まで侵入されかねません。
- 誰がアクセスしているかを確実に確認する:ベンダーの誰が、いつ、どの設備にアクセスしているかを、個人単位で認証・記録する。共有アカウントでの遠隔アクセスは避ける。
- パスワードだけに頼らない:リモートアクセスの認証を、盗まれやすいパスワードだけでなく、より強固な多要素の認証にする。
- アクセスできる範囲を絞る:ベンダーがアクセスできるのは、保守対象の設備だけに限定する。工場全体にアクセスできる状態にしない。
- アクセスの時間・記録を管理する:必要なときだけアクセスを許可し、常時接続を避ける。すべてのアクセスを記録する。
「便利な遠隔保守」が最大の侵入口になりうる
リモートメンテナンスは、保守の効率を大きく高める便利な仕組みです。しかし、その認証が甘いと、工場への最も危険な侵入口になります。「ベンダーだから信頼できる」と認証を緩めるのではなく、誰が・いつ・どこにアクセスしたかを確実に確認・記録し、アクセス範囲を最小限に絞ること。外部からのアクセスこそ、最も厳格に統制すべき対象です。
5. 現実的な認証強化のステップ
OT環境の認証強化は、「止められない」という制約の中で、現実的に進める必要があります。次のようなステップが有効です。
- 現状を把握する:まず、OT環境にどんな機器・システムがあり、それぞれどう認証されているか(共有アカウントか、パスワードは設定されているか等)を洗い出す。見えないものは守れない。
- アクセス経路を統制する:古い機器の認証を直接変えられなくても、その機器に至るネットワークの経路で、アクセスする人・デバイスを認証・制御する。ネットワーク分離と組み合わせる。
- リモートアクセスを固める:最も狙われやすいリモートメンテナンスの認証を優先的に強化する。個人認証・多要素・アクセス範囲の限定・記録。
- 共有アカウントを見直す:可能なところから、制御用端末のログインを個人単位にしていく。「端末は共用でもログインは個人」の考え方を適用する。
- 記録と監視を整える:誰がどの設備にアクセスしたかを記録し、異常を検知できるようにする。
ポイントは、「古い機器を無理に変えようとせず、アクセスする人と経路の側で認証を固める」という発想です。すべてを一度に完璧にする必要はありません。最も狙われやすいリモートアクセスから優先的に固め、段階的に広げていく——この現実的なアプローチが、止められないOT環境での認証強化を可能にします。
6. 止めずに、守る
OT環境の認証は、「止められない」「古い」「共有が根付いている」という制御システム特有の事情から、IT環境とは異なる難しさを抱えています。しかし、IT/OTが融合し、外部からの攻撃経路が生まれた今、OTの認証を甘いままにしておくことは、工場全体を危険にさらすことにほかなりません。
大切なのは、OTの制約を理解したうえで、現実的に守ることです。機器そのものの認証を直接変えるのが難しければ、アクセスする人と経路の側で認証を固める。最も狙われやすいリモートメンテナンスから優先的に対策する。共有アカウントを、現場を止めない形で個人認証に移していく。こうした段階的な取り組みによって、生産を止めることなく、制御システムを守ることができます。
工場の安全と稼働は、その入口である認証の強さにかかっています。誰が制御システムにアクセスできるのかを、パスワードに頼らない確実な方法で確認し、外部からのアクセスを厳格に統制し、すべてを記録する——この守りの基盤を、現場を止めずに築いていくことが、これからの製造業に求められています。まずは自社のOT環境で、どんな認証が使われ、どこに弱点があるかを把握することから始めてみてください。それが、止めずに守るための第一歩です。