1. ゼロトラストは「製品1つ」では実現しない
ゼロトラストとは、「何も信頼しない(Never Trust, Always Verify)」を前提に、アクセスのたびに本人と状況を検証するセキュリティの考え方です。従来の「社内は信頼、社外は危険」という境界型の発想を捨て、社内・社外を問わず、すべてのアクセスを疑ってかかります。詳しくはゼロトラストとはで解説しています。
ここで重要な誤解を解いておきましょう。ゼロトラストは、「ゼロトラスト製品」を1つ導入すれば実現する、というものではありません。ゼロトラストは考え方であり、それを実現するには、複数の技術要素を組み合わせて、多面的に守りを固める必要があります。では、具体的にどんな要素が必要なのか。米国CISA(サイバーセキュリティ・インフラセキュリティ庁)などの整理を参考に、代表的な5つの要素を見ていきましょう。
2. ゼロトラストを実現する5つの要素
| 要素 | 守る対象 | 主な取り組み |
|---|---|---|
| ① ID(アイデンティティ) | 「誰が」アクセスするか | 本人確認の強化、多要素認証・パスワードレス、ID管理 |
| ② デバイス | 「どの端末で」アクセスするか | 端末の状態確認、管理された端末のみ許可 |
| ③ ネットワーク | 通信経路 | 通信の暗号化、細かい区画化(マイクロセグメンテーション) |
| ④ アプリケーション/データ | アクセスされる資源 | アプリ単位のアクセス制御、データの保護・分類 |
| ⑤ 可視化と分析 | 全体の監視 | ログの収集・分析、異常の検知、継続的な監視 |
① IDは「誰が」を確認する要素、② デバイスは「どの端末か」を確認する要素です。③ ネットワークは通信を守り、社内を細かく区切って、万一侵入されても被害を封じ込めます。④ アプリケーション/データは、守るべき資源そのものへのアクセスを制御します。そして⑤ 可視化と分析が、これら全体を常に監視し、異常を検知します。この5つが噛み合って初めて、「何も信頼せず、常に検証する」ゼロトラストが機能するのです。
3. 5つの要素の中心にある「ID・認証」
5つの要素は、どれも重要です。しかし、その中でも「①ID(アイデンティティ)」が、ゼロトラストの中心(起点)だと言われます。なぜでしょうか。
ゼロトラストの本質は、「アクセスしてきたのが、本当に正規の本人か」を、毎回確かめることにあります。デバイスもネットワークもデータも、結局は「そのアクセスをしている人が誰か」が確認できて初めて、適切に制御できます。「誰か」が分からなければ、何も判断できないのです。だから、CISAの成熟度モデルでも、アイデンティティは最初の柱に位置づけられています。そして、この「誰か」を確かめる技術こそが認証です。認証が弱ければ——たとえばパスワードだけなら——攻撃者が正規利用者になりすまして、ゼロトラストの守りを起点から崩してしまいます。逆に、認証が強固であれば、ゼロトラスト全体が揺るぎない土台の上に立ちます。ゼロトラストは、強い認証があってこそ成り立つのです。認証の役割についてはなぜ認証がゼロトラストで重要なのかで詳しく解説しています。
4. どの要素から始めるべきか
5つの要素を、一度にすべて揃えるのは現実的ではありません。ゼロトラストは、段階的に築いていくものです。では、どこから始めるべきか。答えは、「①ID・認証」からです。
前述の通り、IDはゼロトラストの起点です。ここが弱いままでは、他の要素をどれだけ固めても、なりすましで突破されてしまいます。逆に、まず認証を強化すれば、それだけで「なりすましによる侵入」という最も多い攻撃を大きく減らせます。具体的には、次の順で進めるのが定石です。
- STEP1:認証を強化する(多要素認証、そしてパスワードレスへ)。まず「誰か」を確実にする。
- STEP2:デバイスの管理を整え、「どの端末からか」も確認できるようにする。
- STEP3:アクセス制御を細かくし(最小権限)、ネットワークを区画化する。
- STEP4:ログを集めて可視化・分析し、継続的に監視する。
この「認証から始める」進め方が、投資対効果が高く、失敗しにくい王道です。詳しい手順はゼロトラスト導入ロードマップもご覧ください。
5. 認証を支える最終形——パスワードレス
ゼロトラストの起点である認証。それを最も強固にする形が、パスワードそのものをなくす「パスワードレス認証」です。
ゼロトラストは「何も信頼しない」ことを掲げますが、皮肉なことに、パスワードによる認証は「盗まれたパスワードを信頼してしまう」隙を残します。フィッシングで盗まれたパスワードで正規利用者になりすまされれば、ゼロトラストの起点が崩れます。だからこそ、ゼロトラストの認証は、フィッシングに強く、盗めるものが存在しないパスワードレス(FIDO2/パスキー)であるべきなのです。パスワードレスなら、なりすましの起点となるパスワードそのものが存在せず、ゼロトラストの「常に検証する」が、真に信頼できる土台の上で機能します。米国NISTをはじめ世界のセキュリティガイドラインが、最終的に求められる認証としてパスワードレスを示しているのは、ゼロトラストを本気で実現するうえでも理にかなっています。5つの要素を築くなら、その起点である認証は、ぜひパスワードレスを見据えて設計してください。
6. まとめ
ゼロトラストは、製品を1つ導入すれば実現するものではなく、①ID、②デバイス、③ネットワーク、④アプリケーション/データ、⑤可視化と分析、という5つの要素を組み合わせて築くものです。そして、その5つの中心にあり、起点となるのが「①ID・認証」です。「誰か」が確認できなければ、他の要素も機能しません。
だからこそ、ゼロトラストは認証の強化から始めるのが王道です。そして、その認証を最も強固にする形が、フィッシングに強いパスワードレス認証(FIDO2/パスキー)です。世界のガイドラインが最終的に求めるのも、このパスワードレスです。ゼロトラストの実現を目指すなら、まず自社の認証がパスワードだけになっていないかを確認し、認証を軸に、段階的に5つの要素を築いていきましょう。進め方でお困りなら、専門家にご相談ください。