1. なぜ今、AD移行なのか
長年、多くの企業のID管理を支えてきたのが、社内サーバーで動くオンプレミスのActive Directory(AD)です。社内のPCログイン、ファイル共有、各種システムの認証を一手に担ってきました。しかし今、このオンプレADから、クラウドのMicrosoft Entra ID(旧Azure AD)へと、ID基盤を移行する動きが加速しています。
背景には、テレワークの普及とクラウド・SaaSの利用拡大があります。「社内にいる前提」のオンプレADでは、社外から働く従業員や、増え続けるクラウドサービスに対応しきれなくなってきたのです。クラウドのEntra IDへ移行すれば、場所を問わず、多数のSaaSの認証を一元的に扱えます。とはいえ、AD移行は、全社員のアカウント・権限・認証が関わる一大プロジェクト。安易に進めると、業務停止やセキュリティ事故を招きかねません。オンプレADの限界についてはActive Directoryだけでは不十分な理由もご覧ください。
2. AD移行で失敗しないための6つの注意点
| 注意点 | 内容 |
|---|---|
| ① 現状の棚卸しを徹底する | アカウント・グループ・権限・依存システムを漏れなく把握する。移行の土台 |
| ② 不要なアカウント・権限を整理する | 移行前に、退職者・不要権限を削除。「ゴミごと移す」を避ける |
| ③ 依存するオンプレ資源を確認する | ADに依存する社内システム・ファイル共有・プリンタ等の扱いを決める |
| ④ 段階的に移行する | 一斉ではなく、部署・機能ごとに段階的に。都度検証する |
| ⑤ 移行中の認証・業務継続を確保する | 移行の途中でログインできない、業務が止まる事態を防ぐ |
| ⑥ セキュリティ設定を引き継ぐ・見直す | アクセス制御やポリシーを、クラウドに合わせて適切に設定する |
最も重要なのが、① 現状の棚卸しと② 不要なアカウント・権限の整理です。長年運用されたADには、退職者のアカウント、使われていないグループ、肥大化した権限が大量に蓄積しています。これをそのままクラウドへ移すと、「ゴミごと引っ越す」ことになり、新環境にもリスクを持ち込むことになります。移行は、こうした「たまった負債」を清算する絶好の機会。移す前に、まず整理することが鉄則です。アカウント整理の考え方はアクセス権の棚卸しも参考にしてください。
3. 一気に移すべきか——ハイブリッドという現実解
「オンプレADを、一気に全部クラウドへ移すべきか」——多くの企業が悩むポイントです。結論から言えば、多くの企業にとって、いきなり完全移行するのは現実的ではありません。オンプレADに依存する社内システムや、クラウド化が難しい業務が残っているのが実態だからです。
そこで現実解となるのが、オンプレADとクラウドのEntra IDを連携させて併用する「ハイブリッドID」です。オンプレADの資源はそのまま活かしつつ、クラウド・SaaSの認証はEntra IDが担い、両者を同期させます。これにより、業務を止めずに、段階的にクラウドへ移行していけます。ハイブリッドIDの詳しい考え方はハイブリッドID管理とはで解説しています。AD移行は「一気に」ではなく「段階的に、ハイブリッドを経由して」進めるのが、失敗しない王道です。
4. 移行は「認証強化」の絶好の好機
AD移行を、単なる「引っ越し」で終わらせるのは、もったいないことです。AD移行は、全社の認証を見直し、強化する絶好の好機だからです。せっかくID基盤を刷新するのですから、その到達点は、これからの標準まで見据えるべきです。
オンプレADの時代、認証はパスワードが中心でした。しかし、クラウドのEntra IDは、多要素認証・条件付きアクセス、そしてフィッシングに強いパスワードレス認証(Windows Hello、FIDO2、パスキー)に標準対応しています。移行のタイミングで、パスワード中心の認証から、パスワードレスへと進める——これが、AD移行を最大限に活かす道です。考えてみてください。せっかく移行するのに、到達点が「パスワード+MFA」のままでは、数年後にまた「パスワードレスへの移行」が必要になりかねません。だからこそ、移行の設計段階から、パスワードレスを見据えておくのが賢明です。
Microsoft自身がパスワードレスを推奨し、米国NISTをはじめ世界のセキュリティガイドラインも、最終的に求められる認証としてパスワードレスを示しています。AD移行は、たまった負債を清算し、認証をこれからの標準(パスワードレス)へ引き上げる、またとない好機なのです。認証基盤刷新の進め方は認証基盤刷新プロジェクトの進め方もご覧ください。
5. まとめ
オンプレミスのActive Directoryからクラウド(Entra ID)へのAD移行は、テレワークとクラウド活用の時代に対応するための重要な取り組みですが、全社に関わる一大プロジェクトです。①現状の棚卸し、②不要なアカウント・権限の整理、③依存資源の確認、④段階的な移行、⑤業務継続の確保、⑥セキュリティ設定の見直し、という6つの注意点を押さえることが、失敗を防ぐ鍵です。特に、移す前の「整理」を怠ってはいけません。
移行は一気にではなく、ハイブリッドIDを経由して段階的に進めるのが現実解です。そして、AD移行は認証を見直す絶好の好機——その到達点は、Microsoftも世界のガイドラインも最終的に求める、フィッシングに強いパスワードレス認証(FIDO2/パスキー)に据えるべきです。移行の設計段階から、パスワードレスを見据えましょう。AD移行の計画でお困りなら、専門家にご相談ください。