企業のシステムがオンプレミスからクラウドへ移行するにつれ、「誰が、どのクラウドリソースに、どこまでアクセスできるか」を管理するクラウドIAMの重要性が高まっています。しかしAWS・Azure・GCPは、それぞれ独自の権限モデルを採用しており、複数クラウドを併用する企業では管理の複雑さが課題になりがちです。本記事では、主要クラウドのIAMの基本構造と、マルチクラウド環境での統合管理の考え方を整理します。
1. クラウドIAMとは何か
クラウドIAM(Identity and Access Management)とは、クラウドサービス上のリソース(仮想マシン、ストレージ、データベース等)に対して、誰が・何を・どこまで操作できるかを制御する仕組みです。オンプレミス環境のActive Directoryが「社内ネットワークへのアクセス」を管理するのに対し、クラウドIAMは「クラウド事業者が提供するAPI・コンソール経由の操作」を管理する点に特徴があります。
クラウドIAMが不適切に設定されていると、必要以上に広い権限を持つアカウントが放置され、そのアカウントが侵害された場合の被害範囲が拡大します。近年の情報漏えいインシデントの多くが、クラウド環境における「過剰な権限付与」を原因の一つとして挙げています。
2. AWS IAMの基本構造
AWS(Amazon Web Services)のIAMは、以下の要素で構成されます。
- ユーザー(User):個々の人間やシステムに対応するアカウント
- グループ(Group):複数のユーザーをまとめて権限管理するための単位
- ロール(Role):特定の一時的な権限セットを、他のAWSサービスやユーザーに引き受けさせる仕組み
- ポリシー(Policy):JSON形式で記述される、具体的な許可・拒否のルール定義
AWS IAMの特徴は、ポリシーがJSONベースで非常に細かく権限を指定できる柔軟性を持つ一方、その複雑さゆえに設定ミスによる「意図しない過剰権限」が発生しやすい点です。特にルートアカウント(AWSアカウント作成時の最上位権限を持つアカウント)の管理は、他のIAMユーザーとは別次元の厳格な統制が求められます。
3. Azure(Microsoft Entra ID)の基本構造
Microsoft Azureは、Microsoft Entra ID(旧Azure AD)をベースにしたRBAC(Role-Based Access Control)モデルを採用しています。
- Microsoft Entra ID:ユーザー・グループのアイデンティティ基盤。Microsoft 365等とも共通のIDが使われる
- ロール定義(Role Definition):「何ができるか」を定義した権限セット(組み込みロールとカスタムロールがある)
- スコープ(Scope):ロールが適用される範囲(サブスクリプション全体、リソースグループ単位、個別リソース単位等)
Azureの特徴は、多くの企業が既に利用しているMicrosoft 365のID基盤と統合されている点です。オンプレミスのActive Directoryとの連携(ハイブリッドID)もしやすく、既存のMicrosoft環境を持つ企業にとっては親和性の高い設計になっています。
4. GCP IAMの基本構造
Google Cloud Platform(GCP)のIAMも、AWS・Azureと類似したロールベースのモデルを採用しつつ、独自の階層構造を持ちます。
- 組織(Organization)→フォルダ(Folder)→プロジェクト(Project)という階層構造でリソースが管理される
- プリンシパル(Principal):ユーザー、グループ、サービスアカウントなど、権限を付与される対象
- ロール:基本ロール(Owner/Editor/Viewer)、事前定義ロール、カスタムロールの3種類がある
GCPの特徴は、上位の階層(組織・フォルダ)で設定したポリシーが下位(プロジェクト)に継承される仕組みが明確な点です。全社的なガードレールを組織レベルで設定し、各プロジェクトチームには限定的な裁量を与えるという統制モデルを組みやすい設計になっています。
| クラウド | 基本モデル | 特徴 |
|---|---|---|
| AWS | JSONポリシーベース | 柔軟だが複雑。設定ミスによる過剰権限のリスクがある |
| Azure | RBAC(スコープ×ロール) | Microsoft 365とのID統合がしやすい |
| GCP | 階層継承型RBAC | 組織レベルのガードレール設定がしやすい |
マルチクラウド環境の認証統合は、Keyperにご相談ください
Net PeaceのKeyperは、AWS・Azure・GCPをはじめとするクラウド環境へのアクセスに、FIDO2による統一的な認証レイヤーを提供します。クラウドごとに異なる認証設定を個別管理する負担を軽減します。
5. マルチクラウドで生じる課題
複数のクラウドを併用する企業では、以下のような課題が生じやすくなります。
- 権限モデルの違いによる設定の属人化:AWS・Azure・GCPそれぞれの権限モデルに精通した担当者が個別に必要になり、知識が属人化しやすい
- 認証情報の分散:クラウドごとに異なる認証方式・パスワードポリシーが存在し、社員の管理負担・攻撃対象領域(アタックサーフェス)が増える
- 棚卸し・監査の困難さ:「全社でどのクラウドに、誰が、どんな権限を持っているか」を横断的に把握することが難しい
- 退職者対応の漏れ:複数クラウドそれぞれで個別にアカウント無効化が必要な場合、対応漏れが発生しやすい
6. 統合管理へのアプローチ
IdPへの認証集約
各クラウドのネイティブなユーザー管理に依存するのではなく、SAML/OIDC対応のIdP(Microsoft Entra ID等)に認証を集約し、各クラウドはそのIdPと連携する「フェデレーション」構成にすることで、認証の一元化が可能になります。
SCIMによる自動プロビジョニング
人事システムの情報を起点に、SCIM(System for Cross-domain Identity Management)を使って各クラウドのアカウント作成・削除を自動化することで、退職者対応の漏れを防ぎます。
横断的な権限の可視化
クラウドごとに個別のコンソールで権限を確認するのではなく、複数クラウドの権限情報を統合的に可視化するツール(CIEM:Cloud Infrastructure Entitlement Management等)の活用も、大規模なマルチクラウド環境では有効な選択肢です。
よくある質問
Q1: クラウドIAMとオンプレミスのIAMは何が違いますか?
オンプレミスのIAMは主に社内ネットワーク・ディレクトリサービス(Active Directory等)を対象としますが、クラウドIAMはクラウド事業者が提供するAPI・コンソール経由の操作を対象とします。近年は両者を統合した「ハイブリッドID管理」の需要が高まっています。
Q2: 複数クラウドの権限を1つのツールで管理できますか?
各クラウドのネイティブなIAMコンソールを完全に代替することは難しいですが、認証の一元化(IdPへの集約)や、CIEMツールによる横断的な可視化によって、実質的な管理負担を大きく軽減することは可能です。
Q3: 中小企業でもマルチクラウドの統合管理は必要ですか?
単一クラウドのみを利用している場合は、そのクラウドのネイティブなIAM機能を適切に運用することが優先されます。複数クラウドを併用し始めた段階で、認証の一元化や棚卸しの仕組みを検討することを推奨します。
7. まとめ
クラウドIAMの基本と統合管理の考え方を振り返ります。
- クラウドIAMは、AWS・Azure・GCPそれぞれ異なる権限モデル(JSONポリシー・RBAC・階層継承型RBAC)を採用している
- マルチクラウド環境では、権限モデルの違いによる属人化・認証情報の分散・棚卸しの困難さが課題になりやすい
- IdPへの認証集約とSCIMによる自動プロビジョニングが、統合管理の基本アプローチになる
- 横断的な権限可視化ツールの活用も、大規模なマルチクラウド環境では有効な選択肢
Net PeaceのKeyperは、マルチクラウド環境における認証の一元化を、FIDO2によるパスワードレス認証と組み合わせてご支援します。