1. なぜ製造業の認証システム選びは特別なのか
認証システムを選ぶとき、製造業には、一般的なオフィス環境とは異なる、特別な視点が必要です。オフィス向けの基準でそのまま選ぶと、「導入したけれど現場で使えない」という失敗に陥りがちです。
なぜ特別なのか。製造業には、工場・製造現場ならではの事情があるからです。1台の端末を多数の作業者が共有する、手袋を着けたまま操作する、交代勤務で人が入れ替わる、古い制御システム(OT)が混在する、多数の協力会社・下請けが関わる——こうした事情は、オフィスにはないものです。これらの現場の事情に合った認証システムを選ばなければ、現場に定着しません。本記事では、製造業が認証システムを選ぶ際の、7つの選定基準を解説します。工場・現場で失敗しないための、実践的なガイドです。
「現場が使えるか」が最大の基準
製造業の認証システム選びで、最も重要な基準は「現場が無理なく使えるか」です。どんなに高機能でも、現場の作業を妨げるものは、必ず「ログインしっぱなし」「付箋にパスワード」といった抜け道を生み、形骸化します。セキュリティと現場の利便性を両立できるか——これが、製造業の認証システム選びの核心です。
2. 選定の7つの基準
製造業が認証システムを選ぶ際に確認すべき、7つの基準を整理します。
| 基準 | 確認ポイント |
|---|---|
| 1. 認証の速さ | 現場の作業を止めない、素早いログインができるか(数秒で完了するか) |
| 2. 共用端末への対応 | 「端末は共用でも、ログインは個人」を実現できるか |
| 3. 手袋・作業環境への配慮 | 手袋を着けたまま、汚れた手でも使えるか(ICカードなど) |
| 4. IT/OT環境への対応 | オフィス系だけでなく、生産系・制御系の環境にも対応できるか |
| 5. サプライチェーン対応 | 協力会社・下請けを含めたID管理ができるか |
| 6. 認証の強さ(重要) | フィッシングにも強いパスワードレス認証に対応しているか |
| 7. 記録・監査 | 誰が操作したかを記録し、監査・取引先要求に対応できるか |
これらの基準は、いずれも製造業特有の事情を反映したものです。特に重要なのが、1〜3の「現場で使えるか」に関わる基準です。以下、特に重要な基準を詳しく見ていきましょう。
3. 最重要基準——現場を止めない速さ
製造業の認証システム選びで、最も重視すべきなのが「認証の速さ」です。前述のとおり、現場の作業を妨げる認証は、必ず形骸化します。
オフィスなら、複雑なパスワードを入力する数十秒も許容されるかもしれません。しかし、製造現場では、交代のたびに、あるいは頻繁に端末を使うたびに、そんな時間はかけられません。手袋を着けたまま、汚れた手で、素早くログインする必要があります。だからこそ、ICカード(社員証)をかざす、生体認証を使うといった、パスワード入力に頼らない素早い認証が求められます。
具体的には、次のような認証手段が、製造現場に適しています。
- ICカード認証:社員証などのICカードをかざすだけでログイン。手袋のままでも数秒で完了。交代が多い現場に最適。
- 生体認証:指紋や顔でログイン。カードを持ち歩く必要がない。
- これらの組み合わせ:状況に応じて、複数の手段を使い分けられる柔軟性。
重要なのは、これらの認証手段が、単に「速い」だけでなく、「速く、かつ個人を識別できる(誰が操作したか記録できる)」ことです。共用アカウントの速さと、個人認証の安全性を両立する——これが、製造業の認証システムに求められる最重要ポイントです。
製造現場に合う認証システム、一緒に選びませんか?
現場を止めない速さと、個人識別の安全性を両立。Net Peaceが、工場・製造現場に合った認証システムの選定を支援します。
4. IT/OTとサプライチェーンへの対応
製造業ならではの、もう2つの重要な選定基準が、「IT/OT環境への対応」と「サプライチェーン対応」です。
IT/OT環境への対応:製造業には、オフィス系のIT環境だけでなく、生産設備や制御システムといったOT環境があります。認証システムを選ぶ際は、オフィス系だけでなく、こうしたOT環境にも対応できるか、あるいはOT環境の認証をどう補完できるかを確認する必要があります。古い制御システムは直接認証を強化できないことも多いため、その手前のアクセス経路で認証・制御できるかがポイントになります。
サプライチェーン対応:製造業は、多数の協力会社・下請けと連携します。認証システムが、自社の社員だけでなく、こうした外部の関係者を含めたID・アクセス管理ができるかも、重要な基準です。特に、大企業の取引先である製造業では、サプライチェーン全体のセキュリティが問われます。経済産業省・IPAが推進するSCS評価制度をはじめ、取引先からのセキュリティ要求に応えられる認証・アクセス管理ができるかを、選定の視点に加えるべきです。
5. 選ぶなら、パスワードレス対応を
製造業の認証システムを選ぶうえで、将来を見据えて重視したいのが「パスワードレス認証への対応」です。
実は、製造現場に適した認証手段——ICカードや生体認証による素早いログイン——は、パスワードレス認証(FIDO2/パスキー)と非常に相性が良いのです。ICカードや生体で本人確認し、パスワードに頼らず、フィッシングにも強い認証を実現する。これは、製造現場が求める「速さ」と、セキュリティが求める「強さ」を、同時に満たします。
世界のセキュリティガイドラインも、パスワードレスへの移行を明確に示しています。製造業が認証システムを選ぶなら、単に「現場で使える」だけでなく、「現場で使えて、かつフィッシングにも強いパスワードレス認証を実現できる」ものを選ぶことが、長い目で見て最も価値のある選択になります。認証システムの選定を、現場の課題解決と、セキュリティの将来を見据えた進化の、両方を実現する機会と捉えることをおすすめします。
6. まとめ
製造業の認証システム選びは、オフィス向けとは異なる、7つの基準——認証の速さ、共用端末対応、手袋・作業環境への配慮、IT/OT対応、サプライチェーン対応、認証の強さ、記録・監査——で判断することが重要です。中でも最重要なのは、「現場を止めない速さと、個人識別の安全性の両立」です。現場が無理なく使えなければ、どんなシステムも形骸化してしまうからです。
そして、選ぶなら、パスワードレス認証に対応したものを。ICカードや生体認証による素早いログインは、パスワードレスと相性が良く、現場の速さとセキュリティの強さを両立できます。製造業の認証システム選びは、現場の課題を解決しつつ、フィッシングにも強いパスワードレス認証へと進化させる、絶好の機会です。自社の現場に合った認証システムを選び、現場を止めずにセキュリティを高めていくために、まずは自社の現場の事情を整理することから始めてみてください。選定に迷ったら、製造業の現場を理解した専門家に相談することをおすすめします。